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ヘンリー・ジェイムズ 「教え子」その1 20230205読書会テープ

【はじめに】
H はじめてヘンリージェイムズを読んだんですが、とても不思議な文章、ぼんやりしたところに焦点を当てようとしている。
 たとえばペンバートンとモーガンの対話で、モーガンが嘘つきと言ったのに、両親は「これでもペンバートンさん、私たちを嘘つきと言うのですか」といい、いや「嘘つきと言ったのは僕の方だ」とか。誰が何を言ったか誰がどこにいるとか、ぼんやりしたところを何度もシーンとして描いている。
 教え子というのも、最初はお金を頂いて子供を教育するという形ではいったはずなのに、子供が可愛いとか一緒にいたいという気持ちを利用されて、子供と一緒にいられるのだからいいでしょうといわれる。その構図は身につまされるところがある。学校に行くのは子供のためと思っているが、いつのまにかものすごく悪い労働状況で働かせられる。
K 内容は言葉を追っていけば分かるけれど、一体何を目的に書かれているのか。
S たとえば詐欺師の一家に雇われた家庭教師の話と言って、いちおう間違いないですよね。だけれど、読みながら何遍も笑ってしまって、悪意があるともないとも言えない、何とも言えず面白い感じがする。単なる詐欺師の一家の話ではおさまらない。
K 何かふしだらな感じもある。それは詐欺師だからだろうけれど。
S 滑稽、ふしだら、いい加減。
K 楽天的といえばいえるのかもしれないが、よくぞこんなで異常をきたさず暮らせるものだ。
S 焦点が合わないから、いろんなものが虹色に見える、詐欺師にも見えれば。
K そういうふうに思わせてきた一家でもある。最初から手袋は薄汚れているし、ハンカチだって薄汚れていた。テンバートンはそれに気がつかなかったのか。
S モーガンの靴下が破れているとか、表に現れないところには気をつけない、そういうものは表に出さない。モーガンはみすぼらしい格好をしている、しかし領事館では品があるのでお金を貸してくれる。ぼろぼろなのに品格がある、虹色で光を当てればどうにでも見える。
S モーガン自身はペテン師ではないのか?
K そうではない、天才児で、自分の家族を嫌っている。
S そういう風にも見えるよね。子供が可愛いらしさによって、誰かの愛を得るというのは天才的な詐欺師でしょう? だからモーガンも一家も全部詐欺師の可能性があるかな。
H 領事館でのモーガンのセリフは危うかったですよね。電報を見せるだけにして、行かないでお金だけとってしまったらどうとおどけている。大人の中で一生懸命成長しようとしている子供のようにも見えるが、詐欺の卵の要素がある。
S 素質がある。
K 悪くなりたくないからペンバートンを慕っている。