清風読書会

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「ねじの回転」その1 ヘンリー・ジェイムズ(土屋 政雄 翻訳) 読書会テープ20230305

【はじめに】

S 最初に時間の枠を確認しておきます。

ダグラスが、筆者の「私」たちを前にして、おそろしい話を朗読して聞かせた時点。その時ダグラスは大体60歳から65歳位と見積もった。ダグラスは子供が二人登場する恐ろしい話を知っていると言い、その話を記した書き物(手紙)を自宅から取り寄せた。

現在、ダグラスはもう死んでしまっていて、死を目前にしてその手紙を「私」に送ってくれた。それをそのまま書き記したのがこの短篇である。

ダグラスが推定60歳の時に、20年前に知り合いの女教師が死亡して書き物を送ってくれたとあるので、ダグラスが40歳の時、女教師は50歳で死亡したと見積もっています。

女教師の死亡から20年前、女教師が30歳の夏にダグラスと出会った。ダグラスは20歳位の青年で、10歳年上の女教師から、直に10年前に経験した恐ろしい話を聞いた。この時点から60歳までの40年間、ダグラスは女教師に思慕を抱き続けた。

女教師が語った話は、女教師が20歳の時の出来事で、この20歳という年齢だけは作品の中で確定している。女教師は、さる屋敷に雇われて、二人のお子さんの面倒を見ていたが、一人は死んだ、そういう出来事があった。

H 螺旋階段のようにめまいがしそうです。文書の枠を確認すると、女教師の日記があって、それをダグラスが受け継いで、それを筆者が正確に書き写したということですね。手紙のように受け継がれている。

S 手紙のように文字という手段の受け継ぎと、ダグラスはその出会いの夏に女教師から出来事を聞いている。そのあと20年後に手紙が送られて来て、文字と口頭のズレがある。正確に写したという作家の文字のバージョンと、非常に美しく朗読したというダグラスの声のバージョンがある。

H 兄弟もたくさん出てきて、確認すると、お屋敷のマイルズとフローラの兄妹、ダグラスにも妹がいて、妹にその女教師がついていた。家庭教師にも兄姉がいて末っ子だとあり、グロース夫人を姉妹のように感じている。屋敷の主人も兄弟の子供を預かっている。

K 弟はインドで死亡して、その子供を叔父が預かった。

 

【さまざまの死】

S ジェスル先生の死因は何だったのだろう? 解説では子供ができて死亡したとあるけれど、そんなことは書いてない。身重になって年末に帰ったまま戻ってこられなかったという解釈? 隠しようもなくまずいことが起きて帰って来られなかったということか。

I クリントの死因は?

T  パブで酔って凍った坂道で足を滑らせたとあるが、「少なくとも表面的には」と書いてあって、結局よくわからない、謎だらけとある。

H 状況証拠、散らばっているものをつなぎあわせると、そういうシーンが何となく見えてくる。ジェスル先生の場合も、どこやらそういう絵・ストーリーが見えてくる。

S ジェームズ特有のどこやらそういう絵柄が見えてくるという書き方がある。「絨毯の下絵」

K 説明が多いわりには、はっきりしたことは分からない。

S さて、では最大の謎マイルズの死因は?

T BBCのドラマを先に見たのですが、世間知らずの初心で欲求不満の抑圧された女性で、病んでいる女教師が、マイルズへの恋愛感情をもってしまって、殺してしまったのか?

S マイルズとの関係は恋愛だろうか?雇い主の主人への恋愛感情があったことは書かれていて、女教師は恋愛をしていたという枠の記事がある。美しい主人への感情がマイルズへ移行した? マイルズの年齢は?

K 10歳。恋愛対象にはなりにくい?

H そうすると、マイルズと女教師との年齢は10歳差で、女教師とダグラスとの年齢差も10歳差。

S マイルズはこのとき元服年齢、レディと一緒ではいやで、男の子の世界に入っていくと言っているから、成人年齢に達しつつあり、かろうじて恋愛対象になると考えてよいだろう。ダグラスと女教師の年齢差と呼応していて、そういうお年頃だからと言っている。恋愛対象としてあり得るだろう。

H 2章で、あの方は若い女性が好きだからとグロース夫人が言うところで、双方で主語を取り違えている。あの方とは、旦那様?マイルズ?クリント?

S そうすると、雇い主の主人からマイルズへ恋愛対象が移行したところで、罰せられた形で死ぬということか。屋敷の支配者としての叔父さんの怒りに触れた?

M マイルズとクリントの関係はどういうものですか?

S 同性愛でしょう。

M クリントは、あんな恐ろしい関係をマイルズともちつつ、女家庭教師とも関係をもった。

S マイルズをめぐって、クリントの同性愛的な牽引力と、女教師のヘテロ的な牽引力とが争ったというようにも見える。

M 同性愛は捕まるのですね。

S オスカー・ワイルドアラン・チューリングも獄死している。「教え子」という作品でも同性愛が疑われるので掲載をどうしようか問題になったという。

M マイルズもクリントもどちらでもよく、グロースさんと女家庭教師も姉妹的関係がある。

S そうすると、この話は、時代の最先端で、ヘテロとホモが同等に考えられなければならない。謎が倍になる。マイルズが退校になった理由は、たとえば同性愛だと思えないことはないが、誰もそれを名指して言えない。何度も何度も話題に上っているのに、結局明かされない。言えない秘密になっている。

S フローラについては、最後に顔が変わるのが怖い。この兄妹はたいへんな美貌だというがどうも信頼できない。

K 屋敷の主人も美しい。

S ダグラスが女教師を非常に美しいというのも疑わしい。美しく聡明だというのは出来事を見るととてもそうは思えない。40年経つと美しくなってしまうのではないか。

T ねじが二回転したらどうだろう、子供が二人だったらとあって、フローラの問題も重要だと思う。

S マイルズはなぜ死んだかという問いの後には、フローラはなぜ生き残ったかという問いがあるということですね。

H 家庭教師はフローラを手に入れることには失敗していますね。その途端にフローラの顔が醜く見えた。そういう失敗の一回転があって、次はマイルズ。マイルズを手に入れることには成功したんじゃないか。成功したからマイルズは死んでしまったのではないか。永遠に自分のものにするためには、マイルズは死んでしまうしかない。