清風読書会

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「近未来の神話」 J.G.バラード 村上博基訳 1982年 20201213読書会テープ

【はじめに】

『人生は驚きに充ちている』のなかに収められている、2013年3月に発表された「廃墟が語りかけてくる」の中で言及されていたバラードを読んでみることにした。

 バラードは、映画化されている「太陽の帝国」とか、「ハローアメリカ」、「ハイライズ」などで知られている。バラードは1930年上海で生まれた、日中戦争時の上海を描いた自伝的作品が「太陽の帝国」。「ハローアメリカ」は気候が変わって廃墟になってしまったアメリカを探検隊が行くという話で、ラスベガスに文明の名残があって、そこでいろいろ事件が起こる。バラードにはそういう廃墟趣味があって、「近未来の神話」に通じる。

【宇宙病】

Y ものすごく怖かった。狂人がたくさん出てきて、恋模様があって、肉欲に忠実で、エレインに恋をしたマーチンスンがおかしくなっていくとか、それから、宇宙病というのがオゾン層が壊れて太陽が怖くなる、それぞれが身近で、未来にありえそうなところが非常に怖い。

 それぞれがとても元気なのが怖い。シェパードも目がランランとしている、人間の野生が目覚めていって、人間が人間でなくなっていく。人への執着が核にある。それから、宇宙病に身に覚えがあるのも怖い。

S ところで宇宙病にかかっているのは誰? まずエレインは宇宙病である。シェパードはどう?

K かかっている。太陽を避けて、疲れすぎて運転できない。

S 宇宙センターにひかれていくというのも、もう病気ですね。マーチンスンはどうでしょう?

Y 宇宙病というより鳥病。鳥に執着している。

S 鳥病は宇宙病とは違う?

Y 外に出て凧を揚げている。

K 人力飛行機で飛んでいる、筋肉を使っている。

S マーチンスンはエレインの主治医で、エレインの病気に感染しているのでは。エレインと一緒にエレインの望みである宇宙ステーションへ移動している。だから宇宙病に感染している。

Y 鳥病は、宇宙病の変異種か。

S アン・ゴットウィンは? これも宇宙センターの周辺にうろうろしている。

Y  シェパードに飼い慣らされていく最後になって、殺されかけて逃げ出している。

K 外に出るのを嫌っているから、ゴットウィンも感染している。

Y シェパードの言うことしか聞かなくなって、世界がだんだん狭まっていって、この人しかいないという風になって、そして最後に逃げ出す。感染しているのではないか。

S 宇宙病には人間に執着・愛着という症状があるのでは。アンもシェパードに執着する必要はないし、マーチンスンもわざわざ患者であるエレインに執着する必要はない。

K 染された人に執着するのでは。

S それは転移? 宇宙病というのは、何か関わりをもった、話をした人に強く執着するという症状があるのではないか。

Y 最初にアンゴッドウィンに話しかけたときに、エレインの面影を見たというのがあって、そこからシェパードはアンゴッドウィンに執着する。

S そうか、そうか、とっかかりがあった。(「ブレードランナー」でデッカードの妻の写真を見たアンドロイドが、その写真のとおりに髪を下ろして、同じようにピアノを弾く、そこからデッカードはアンドロイドとの恋愛に入っていく)

 この人間への執着は、人間だったら誰でも持つ妄想の一つなんじゃない?

Y そうです、逆に人間だからこその病。

S 宇宙病は誰でもかかる病。

Y だから覚えがあるわけだ。

S 宇宙病という人間の執着の病にずっとこだわっているところが、バラードはその辺の宗教よりもずっと上等。私たちは宇宙病に何とかしてつきあわなければならない。

 情報化した世界の人間の特有の執着・妄想を取り出したSF。重病化するエレインのようなのもいるし、跳ね飛ばされて外へ出る人もいるし、暗闇に踏み迷って、どこまでもついていってしまう人もいる。

【SFのジェンダー

S エレインが子供であり、母親であり娘でありというのは、男のジェンダー的望みでしょう。時間が永遠で過去も未来もここにあるというのは面白いけれど、母親というのにひっかかるかな。他の言い方はないのかな。

Y 全体に性的に女性を見ているのが嫌気がさします。

S これはアメリカ的な女性像があるのだろう。

アポロ計画

S 宇宙病がアポロ計画後とある。アポロ計画は1961年から75年、月面着陸は1969年。さて、中国は、2020年12月に嫦娥5号というロケットで国旗を月に立てた。