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川端康成 「散りぬるを」 20200927読書会テープ

【はじめに】

「片腕」を三島由紀夫が絶賛しているので、新潮文庫の『眠れる美女』を購入したが、その中で「散りぬるを」(1933)がもっとも面白かったのでこれを取りあげることにした。代表作の「雪国」(1948)よりかなり早い戦前の同人誌時代の作品。ノーベル文学賞受賞は1968年。

 5年前に殺人事件があって滝子と蔦子という若い女性が殺される。二人は作家の内弟子になって二人で一軒家に住んでいた。滝子は艶麗な23才、蔦子は清麗な21才、ともに文学に志があった。山辺三郎という近所に住む25才の男が二人と顔見知りで、ある晩二人を訪ねて来て話し込み殺してしまう。理由はよく分からない、冗談で驚かそうとするうちに殺してしまった。その三郎も昨年獄死してしまった。当時34才だった作家は、二人のうちどちらをより愛していたとか妄想をたくましくしていたが関係はない。三郎も二人のどちらとも性的関係はなかった。その殺人事件を作家が調書や精神鑑定書などを引用しながら再構成した作品。

 1924年に雑誌「文芸時代」を川端康成(1899~1972)とともに発刊した中河与一(1897~1994)という作家がいる。代表作は「天の夕顔」(1938)、人妻への愛を生涯にわたって抱き続ける青年のきわめてロマンチックな恋物語。また、中河は、1935年に新聞に発表された「偶然の毛毬」からはじまる偶然文学論の論客であったが、川端の「散りぬるを」(1933)は、この偶然文学論のごく近いところで執筆されたものと推測される。ハイゼルベルグの量子物理学にもとづいた中河の偶然論の評価はあまり芳しくないようである。その後、中河は国粋文学へ傾倒してゆく。一方、晩年の川端は、1971年の東京都知事選で自民党推薦の秦野彰を応援して選挙カーに乗って演説までするが、ストップ・ザ・サトウを掲げる美濃部亮吉に大敗。翌1972年、ガスホースを咥えて自殺する。

【偶然の殺人】