【いくつか確認】【枠を飛び越える】【名もなき孤児たちの墓】【指輪】
【真弓の死体はどこにある】
S真弓はどこへ行ってしまったのだろう?この話のどこかで入れ替わっている。真弓が子供を産まなかったというのが確認できてしまうあたりがあやしい、そこでもう入れ替わってしまっている?
H事件自体が真弓に近付いて来ている。腐乱死体のある屋敷は、のり子の死の場面ではないのでは。「それを聞いて現場に駆けつけた警察」(p.211)の前で切れている印象があるから、そのあとが真弓の死体の場所?
Sここには死体がいくつあるか分からないくらい埋められている、そのなかの一つが真弓。
Aここの書き方はこれで全部終わりという書き方。
N「幾つものかけがえのない命」が犠牲となってとあって、真弓が最初に殺された?
S「私」の正体というのは、真弓をマークしていて、真弓にストーカーをしていた男、真弓のファンにも嫉妬して殺してしまう感じ。
A「幾つものかけがえのない命」というのは、SやM子のことでよいか?取り巻きがどんどん死んで行くことで、真弓の死が予兆されていた。真弓の死の前に起きた取り巻きのたくさんの死を無駄にしたという意味。それらの死が告発だったと。
S警察が到着しても、何かを隠している。色々隠しているので、真弓の死骸も出てこれない。
H真弓の死を掴むには、記事でもニュースでもだめで、小説でないと真弓の死を掴めないということ?
S面白い。現実を告発する力を、ニュースも新聞もテレビも持てなくなってしまった。
Nもし「私」が取り巻きを殺していたとして、その「私」が、その人たちの死を正義として、警察が彼らの死を無駄にしたと通報していたら怖い。
S「私」は自分でSやMを殺しておいて、警察に通報して捜させている感じがある。警察と犯罪者が競うのが推理小説の形式。『タイトロープ』(1984)で犯人と刑事がだんだん似てくる。犯人が刑事のネクタイを犯行現場に置いてきたりする。笑っているんだね、追いかけて来いと。犯人と刑事が重なってしまうのは新しい推理小説の定番。
H加害者と被害者が一致してしまうこの小説と同じ。
Sそこで、警察は無能な傍観者か、自分たちを映えさせる背景でしかない。正義は、探偵が勝つか、犯人が勝つか、勝ちを占めた方が正義となる。そうやって殺されていく真弓の正義は、小説しか書けないということだと思う。
Hはじめに「私」は真弓を尊敬している。真弓をマニュアルにして「私」が真弓になっていく話。この小説自体がマニュアルになる?
S最後にも「素直」という単語が出てきたり、ブラシの跡の乱雑な髪は『サイコ』の母親のカツラ、男であり女でもある一人二役。
N「素顔を隠して自分が真弓ではないことをアピール」(p.214)とある。
Sもう入れ替わっている。ああ、それでこう言っている。
H中原の小説は、分かるとそれでないとだめという言葉になっている。
S「過去の時間の中に納まった状態で」「黙ったままでいる」(p.214)とあるように、「私」が勝利を得ているから、「私」が作った過去が正しい過去になる。
Hもう一度。
Sつまり、新聞や警察という正義がなくなったとき、追う「私」と追われる真弓のどちらが勝つかによって、勝った者が現実の主導権を握ることになる。「私」が勝った以上、いろいろな過去は暴かれない。「私」が勝ちを占めている以上、「私」が真弓に入れ替わったことを誰も指摘できない。「私」が真弓に勝つことが、現実を保証する唯一の方法になる、権力闘争なんだと思う。
私たちはそれぞれが権力闘争に勝ち抜かない限り、自分であることができない、あるいは真弓であることができない。誰かであるためには、誰かを殺してその人を床下に埋めなければならない(という苛酷な闘争に放り込まれている)。
【おわりに】
S「私」が真弓に入れ替わっていると読者が気づけないと、「私」が勝利し続けることになり、真弓の死体は隠されたまま。小説が正義を告発できるかどうかは、読者にかかっている。
二度目の指輪の光の中に閉じ込められ、金縛りにあっているのは「私」ではなく真弓ではないか、光から醒めたという記述はないのであるから。
S「動物や身体障害者を好んで虐待した」(p.211)というところが気になる。
A GATOサイトというブラジルあたりの動物虐待動画があるらしい、2chの生物苦手版で話題になっている。
S動物だけではない、アンドリュー・ラウの『消えた天使』(2007)は、失踪者の捜査官の話。アメリカの映画だけれど日本にもあるだろう。失踪の感触が似ている。廃墟になった工場のようなところでいろいろなものが見つかる。噂話だと、「オルレアンの噂」や「だるま」を思い出すから、この小説はとても怖い(ベケットの三部作のように人間の身体が切り詰められていくことが黙示的に怖い)。
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S 真弓が閉じ込められている緑の指輪について、ずっと気になっていた。ビュトールの『時間割』に、姉がつけている昆虫を閉じ込めた琥珀のような指輪に見入るシーンがあった。男は、妹も姉も見失って失意のうちにイギリスを離れる。神話のような過去に魅入られて、目の前の女性を見失う男の話だった。
201704追記